風が止まなくて/メチターチェリ
 
寒の戻りの晩春の
西高東低の風は
足元に散るクワの枯れ葉を
へその高さに舞い上げて
ローン・ウルフを気取るぼくの
たるんだ下腹さえも
その隔てのない包容力で
寒気のまにまに漂わせた

ひやりとする公園のベンチも
かたわらを往く人の流れも
無意識にぼくの体温を奪うような気がして

せめて手のひらにある新書くらいは
ぼくの頭をわかすくらいの
やさしい言葉で語ってほしいのに

だけどこれでは
本がたなうらにあるのではなく
ぼくが路地裏に投げ出されたかのよう

存在と時間は表裏一体で
主体が客体と密接な関係を結ぶのだとしたら
あなたの方へと投げ出された
存在としてのぼくは
完成へ向けた新たな可能性を
つかむことができるだろうか?

けれども

ぼくらの現象世界では
くる日もくる日も風が強く
ぼくをタナゴコロにするあなたの
か細い肩にはおられた
コートの合わせ目は
八つ目のボタンで固く閉ざされ
ぼくの下心をいなしてはじく
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