ガラス底のボート/楽恵
君がオールを漕ぐ
水色の湖にガラス底のボート。
ゆらゆらと
水面に浮かぶ午後の光が
君を映す柔らかな鏡になる。
水中にはいくつも
小さな白い花
手を伸ばして拾いあげる
頬と頬を寄せ合って
かすかな香りを嗅いだあと
君が私の髪に挿す。
丸い水滴が耳たぶをかすめて粒となり
もう一度、湖面に落ちる。
ボートを避けるように
水底を赤い魚が泳ぐ
水鳥の遠い羽ばたき
陽をあつめて温かなガラス底に
まっすぐ身を横たえて
くちびるだけ動かして
君の名前を呼んでみる
声は出さずに
君が笑ったような顔になる。
(好きだよ、と言ってみて)
君と一緒にいると
世界がまぼろしなのか夢なのか
忘れてしまう
ゆらゆらと
君と水中の花を摘む
春の日曜日。
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