海の音楽 /服部 剛
 
忙しい日々のレールを脱線するように 
不意に訪れた長い休暇 
病室のベッドに横たわる僕は 
窓外に立つ 
独りの樹の葉群を躍らせる 
風、を視ていた。 

( きらきらと、協奏曲の奏でる午後に ) 

あれは・・・懐かしい六月の海 
砂浜に横たわる 
あなたの胸は高鳴り 
真白い太陽が雲間から顔を出し 
凪いだ浪間の広がりに、一瞬 
煌(きら)めくひかりの国、が視えた。 

( ひゅうひゅうと、風の顔が口笛を吹く浜辺で ) 

互いの手を結んだ温もりに、瞳を閉じて 
砂に埋もれた貝殻を、耳に重ねて 
遥かな国の呼び声を 
体内に、吸い込んでいた。 

あれは・・・古いアルバムに閉じられた 
二人の他に誰一人いない 
遠い、六月の海。 


  * 


窓外の、はためく葉群の音楽に 
潮騒を聴く 
午後の夢かな 







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