片野さん/れつら
 
してだか電車が止まっても
誰も握らない吊り革はぶらんぶらんと余韻を残していて
苦々しくおもい、隣の吊り革をひん掴むと電車がまた発車した
ぼくは揺られた

中央線はある地点を境に地上に吹き出すのが特徴的で
けれども酩酊した頭ではそれがいつなのかよくわからなかった
ぼくはわりにしっかりした足取りで電車を乗り換えていた
さらには新幹線の切符を改札に通し
路線図を嫌うようにしょぼくれた無人駅で降りた
そのまま4年ほど暮らした

ある日、片野さんがやってきたので
片野さん、詩ですね と言ったら
片野さんはシステムだった
そんなことはあるまい
片野さんはそう言って笑ったが
ぼくにはそう見えた
そんなことはあるまい
ぼくは残りのビールをぐいと呷り
切符を買う


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