赦さないでよ、繋がってたい/あぐり
 



理想も語れない傲慢な気後れをきみに感じてから
多分これが三度目の春で
この冬も結局
きみと雪を見ることはなかった

安全剃刀はいったい誰にとって安全なのかわからなかった頃
ぼくの安全地帯はきみと手を繋いで囁きあう群青の夜だけだった
小さな金魚鉢で泳ぐぼくらに呼吸を教えてくれ、と
それを何に乞えば善いのかも気付かないふりをしては
耳にかかる柔い髪の先にすら
なんだか遠い明日を見つけて泣きそうだった


ぼくはやっぱり
まだ階段も怖いわけで
小さな白い欠片すら捨てられないんだよ
きみがどんな顔でぼくに言葉を書いて
きみがどんな声で
本当はさみしいんだ、って
そう呟くのかも知らない儘に離れてしまった

ぼくに抱かれないきみを
傷付けたいだなんて思っていた青褪めた日々に
それでもぼくの傍にいてくれたことが
いつかこの指の感覚を死なせてしまっても
それがぼくの望んだことだと笑えるよ

まだきみにありがとうが言えないぼくを赦さないで
きみが泣いていた時に
しあわせを感じていたぼくを
どうか赦さないで。



戻る   Point(0)