錆びた三輪車は深いよどみの中へ走る/ホロウ・シカエルボク
冬の欠片を舐めながら
消え去ってゆく一羽の鴉
数秒前までやつの止まり木だった
徹底的に錆びついた三輪車は
生まれる場所を間違えた珊瑚のように見えた
いびつに変化した
小さなハンドルの上で
そいつだけの時間がだらしなくうつろっている
10年ほど前
そこである企業の経営していたカラオケスタジオが廃業した
8年ほど前
薄暗い建物が取り壊されたその頃から
その三輪車は瓦礫の中で主を待っていた
詳しい話は知らない
俺が聞いたのはそれにまつわる噂でしかない
働き詰めでおかしくなった店員が
たまたま遊びに来ていた店長の子供を刺し
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