卒業讃歌/中原 那由多
柔らかな日射しに包まれて
梅のほんのりと香る今日の良き日に
鳥となる準備は整った
目まぐるしい日常の中に
留まることを許してもらえない代わりに
整理整頓を行うための箱を貰ってきた
捨てるべきものはたくさんあっても
残しておくものは本当に少ない
記憶と、あとそれから……
始まりは真っ白なキャンパスから
みんなそれぞれの絵を描き
それぞれの好きな色を添えてゆく
私は鉛筆で古びた塔を描いた
その天辺に赤い花を咲かせれば完成だったが
灰色の絵の具しか買うことができなかったせいで
結果、時間と理想を溝に捨てることになった
壁には今、マスターピースが飾られている
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