自己欺瞞/花形新次
 
今の俺は俺ではない
この俺は仮の姿だ
そう言いながらもう何年も過ぎた

「そろそろ目を覚ましたらどうだ。」
視線を真直ぐ俺に向け
あなたは諭すように言う

あなたの言うことに
間違いがあった例はない
それは俺にも分っていた

鏡に映った二日酔いの俺は
代替可能なその他大勢の顔だ
確かにあなたの言うとおりだ
きっとそうなのだ
俺は勘違いしていたのだ
しかも
とてもとても恥ずかしい勘違いを

いっそのこと
赤い快速特急に身を投げるか?
恐ろしいほどのスピードに
そのブクブク太った脂肪の塊を
木っ端微塵にしてもらうか?

できっこないのだ

だから嘘でも
この俺が本当の俺なのかと
問い続けなければならない
死ぬまで





戻る   Point(2)