うつすひと/恋月 ぴの
ちょっと勇気いるんだよね
あたりを見回してひと気ないの確かめたら
ちいさな箱のなかへ素早く潜りこむ
ペナペナなカーテンを閉ざせば
箱のなかにはなんとも顔色悪い薄倖そうな女がひとり
あんた誰なんだよ
いつまでも私につきまとってさ
どんなに悪態ついたってその女は私から決して離れようとはしない
そんなこと端から判っていることで
不景気な顔と嘘っぱちな職歴じゃ出すだけ無駄になるってもの
ふ〜ん、気に食わなければ撮り直しできるんだ
清涼飲料水とかの自販機の数ほどに
こんな箱がさびしげな都会の月夜には並んでいて
カーテンから突き出た足もとは律儀に黒いパンプスだ
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