ふりだしに戻るばかりの小さなさいころゲーム/ホロウ・シカエルボク
び去っていった
「話したいことがあるのだけれど言っても仕方のないことかもしれない」とでも言うように
鳩はかすかに口を開けたままでいた
愛宕通りあたりを通過する車が高いホーンを響かせたとき
やつは舌打ちをして飛び去っていった
やつが舌打ちをしたのは俺の存在よりも確かな出来事だった
俺は肩をすくめて
首を何度か左右に振った
階段を上り堤防に戻ると
散歩中の老婆と目が合った
彼女は少しだけ微笑むと会釈をした
俺も同じようにして返した
渦巻くような風が橋の近くで騒いで
それまでの数十分はすべてなかったことになった
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