コレスポンダンス/狸亭
何処か知らない 浜辺
の砂の上に座りこんで ぼんやり
海を眺めていたようで
すぐそこの岩屋の蔭
から蟹が一匹
ちろっと動いた ように感じて
眼を凝らそうとしている
つもりが逃げてしまった
記憶の夜の闇
の底に家族たちは深く沈みこんでいたようで
ヘッドライトに浮かんだ道だけが眩しくて
狭い視野が不安になる
たしかにそこはシリア砂漠
の一本道で 運転する車のスピードメーター
は一二〇キロを指しているのに
海の底にいるような遅い感じで
大宇宙の不思議な重量
に押し潰された静寂
の中の六人だったが
助手席にはひっそりと妻がいたし
後部シートには幼児四人が
犇めいていた
か眠りこけていたのだったか
遠い風景はぼやけている
二階の部屋の畳の上の蒲団の上で
ふと目が醒めて
シリアの闇を思い出す
やっぱり妻は隣でひっそりと眠っているし
図体の大きくなった四人の子供は
それぞれの部屋で眠りこけている
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