さようなら、過ぎ去った日々よ/ホロウ・シカエルボク
 


春のある一日の暮方には
発狂の
予兆がある
ジンと痺れたような
頭痛とも呼べない違和感と
芯を抜かれたような
身体の座り
くちびるは
読経のような調子で
言語にならぬ声を長く無意味に吐く
とある一日に
溶けていく
ような
現存
まぶたはずっと
寝過ぎたような
眠り足りないような
疲れに
包まれている
首を垂れて
マリア・カラスの
殺傷事件のような
歓喜の歌声を聴いている
カーテン越しの空は
ほんとうより
終わっているみたいに見える
頭蓋骨と頭皮の間に
何とも名付けられない
薄い膜が
潜り込んでいるみたいに感じる
まばたきを繰り返す
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