白い原稿用紙/あおば
 
むに耐えないのだが
書いた本人は
今が判読できるからそれでも構わないと信じている
文体も整っていないから原稿用紙が可哀相と
読まれることのないことばの嘆きが聞こえるような
明るすぎる今朝のぞろ目銀行前の信号機が赤から青になり
人々は一斉に渡り出す
筆記中に取り残された男の姿が黒い小さな影となり
見えたり見えなくなったりしていたが
呑み込まれたのか流されたのか
それとも書き終えたのか
いつのまにか完全に姿を消した月骸の朝




「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ABさん。

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