春の夕闇/吉岡ペペロ
 
今夜は約束があるからと家をでて

春の夕闇の風をきる

自転車をたいせつに停め

茶のジャンパーのポッケに両手を入れ

小料理屋にはいらんとする六十がらみの男

そんな男においらはなりたい

女将がおいらを待っている、なんて

罪のない本気をかたむけながら

ゆるい苦みをタバコや酒で見つめている

そんな人生もあったかと

二十年まえのおいらが呟いた

煤けた背中が人込みにきえてゆく






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