先生の教科書を盗った日/佐藤真夏
利き手はいつも間違えない
から
なかったことにする癖はひりひりする
汗が一筋流れる間
自動ドアを抜けるまで
1分間が白く、 過ぎる
利き手はいつも
鼓動の先を
滑って
鞄の奥へ
奥に
深く沈んでいく背中
こわくなんかなかった
先生の教科書を
盗った日
抜けそうな八重歯
噛んだ洋服のタグは
ちぎれて落ちた
簡単
鞄に埋もれる小さな背中
脳裏に散らかる消しかすは
しろくてくろくてしろくてくろくてしろくてくろくてくろくてしろい
雲みたいなざんがい
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