砂/アンテ
 
だけ生きられるのね
彼女の乾いた声
あと十五年とすこし
おしまいの日さえ計算でわかる

急がなくちゃ
男の子にうながされて立ち上がる
ここにいるとあなたの記憶がどんどん消えていくわ
女の子が指さした先にドアがある

ぼくが砂時計を好きになったのは
たぶん
記憶を失った後だ
目が覚めたときには
砂時計はひとつもなかったし
そもそも砂時計という物を知っていたかどうかすら
怪しい
あの時きっと
ぼくも ここで

帰らなくちゃ
彼女が記憶を全部なくしてしまう前に

彼女の手を取ると
ぎゅっと握り返してくれた
体温が近づいた気がする
ノブを回して
力を込めてドアを開ける
振り返ると
男の子と女の子が
砂時計のまわりをぐるぐる回っている
鬼ごっこをしているように
くすくす くす
本当に楽しそうに

さらさら さら
砂が落ちつづけている


                 連詩「メリーゴーラウンド」 9




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