お空を旅する/salco
 
ったって話で!
それで夜な夜な禿げ頭を突込んでは
冒険家の夢に浸っていたそうなんですが、えゝ
お察しの通り或る晩、それで。
なに、あゝ見えたってモヨは生きちゃいませんや
新しい男と契ったところで、あの身体じゃどうにもならない
たゞ大きな目を見開いて、かわいい唇を少うし開けたまま
あゝして一緒に居たいのでしょうよ
地面から離れてね、あゝして低く飛び続けているので。
双眼鏡を構えた征次郎が時々話しかけているのは、まあ
どの町の上に来たのだか教えてやるのでしょう
土手を赤犬が歩いているよ、とか
追っかけて来る子らのみそっかすの下駄が脱げたよ、とか。
暮れ方になりますとね、小山の上か川っ原か、
そんな所に気球を降ろして、モヨを抱き下ろすと
竈をこさえて飯盒で飯を炊く、釣った魚を焼くこともある
それから畳んだバルンで寝るらしい
雨や風の日はこんな風に、屋根にして
それで征次郎は星座の物語を聞かせてやるんだそうでさあ
レダの話やケンタウルスの話、獅子座や双子座、乙女座蟹座
横たわったモヨは身じろぎもせず大きな目を開いて、
ぢっと夜空を見ているのだそうで

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