子供たちの世界/真島正人
 
周辺を見渡すと、そこは道路間際の歩道だ。いく台も、真夜中のタクシーが、道路を走っていく。郊外だから、タクシーが多いのだ。だが、こんなに多いのは珍しい。僕は学生時代、よく飲んで、飲みすぎて終電を逃しタクシーで帰る羽目になり、財布をすっからかんにしたものだが、いつもタクシーを捜すのに苦労した。僕は、ぐるぐると体を回し、カメラを探した。僕の安い手持ちカメラ。それはどこかから僕を待っている、僕の撮影が始まるのを、いまだ待っている。僕は、あの映画に、大塚の要望を取り入れて、ちゃんと、『渚のボードウォーク』を主題歌に使ってやるつもりだった。難解な映画に、ドゥーワップは似合わない、だが、それぐらいの優しさは持ち合わせている。ドゥーワ、ッワ。ッワ。僕は、口を小さく広げ、そんな音をつぶやき、唐突に怖くなって。

声の限りに叫んだ。

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