かんばんむすめ/渡 ひろこ
 
黒ずんだ木の床にそっと頬をよせる
インクと機械油の匂いが染みついた床は
使いこまれた年月を
なめらかな感触でつたえてくる


古い印刷工場をリノベーションしたと
誰かが言ってたっけ
そのむかし松尾芭蕉も
この地をホームとしたらしい
寝そべって床の木目をかぞえながら
カフェに転身した居心地をたずねてみる


相変わらずフラットで寡黙なままだけど
ブラジルジャズのミュージシャンが
演奏するとこの木造の建物自体が振動して
ステレオのようによく響くと言っていたから
きっとそれがこたえなんだろう


コーヒーの香りにまじって
キーマカレーのスパイシーな香りがただよ
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