モーブ/イシダユーリ
こいびとを
産み忘れた夜に
こいびとは
お腹をだして
口をくちゅくちゅ
頭が
ごとり
ベッドから落ちて
布団の海に
船がこぎだす
あの子
どこの子
どこにいった子
ぼくの
くちびるに
かみついて
はばたきだけ
残して
いった子
顔ぼやけて
手のひらは
つめたい
色ながれて
化石に
草のあいだに
転げ落ちて
いったよ
こいびとを
産み忘れた夜に
皮膚は紙に
肉は石に
骨は水に
もう
泣く必要が
なくなってしまった
花のようにあかい
胸だけが
足元に
ひらかれている
あの子
どこの子
みっつめの名前
ぼくに
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