かげろうの人/瑠王
 
かげろうの人、その人は
ある日には草原で笛を吹く羊飼いだった
ある日には西の国の白髭の王様だった

かげろうの人、その人は
ある日には一日じゅう涙を流す未亡人だった
ある日には一日じゅう戯けている道化だった

かげろうの人、その人は
誰もが知っているのに
誰ひとり知らなかった

かげろうの人、その人は
とても寂しかった
だけどそれすら忘れてしまった

日の出と共に生まれ変わる、その人は
日の出を見ることを夢見る少年だった
本当の名前を欲しがる少女だった

そして名前を授かることで、その人は
かげろうの人ではなくなったのだ



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