忘れられた女/望月 ゆき
待って待って待って待って
次の日もその次の日もその次の日も
数日後
そこに通りかかった見知らぬ男が
(差し詰め、夜勤明けのタクシードライバーか
または、ちり毛のトラック野郎だろう、とも)
女を自販機と見間違えて
小銭を入れてしまった
それきり女は自販機の姿になった
「本当の話かどうかは知らんがね」
と言って男は去っていった
そんな話はどうでもよかった
喉が渇いていた
小銭を入れてボタンを押す
ガシャン、とにぶい音をたてて缶が落ちる
手に取るとそれはコーヒーだった
車に乗りこみエンジンをかける
缶のふたを取り、ググッとひとくちふくむ
と同時に吐き出した
塩水だった
「ちっ、ハズレたか」
赤い自販機をミラー越しにちらと見た
が
二十年前、この町に仕事で一週間滞在し
その時にたった一晩を共にした
髪の赤い女のことなど
思いだしはしなかった
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