そのベンチに置かれた一対の革靴について/瑠王
同じベンチで話していたはずなのに
いつしか君は二階の窓辺に立つようになった
僕は君に逢いに窓の下へと通うようになり
見上げるかたちで君と話すようになった
やがて君は窓辺に立つこともなくなり
空っぽの窓に僕が呼びかけるようになった
君はゆっくりと窓辺に現れて
知らない花を髪に挿していた
ある日から窓は閉められたままになった
相変わらず僕は君の窓を訪れていた
だけど開くことはなかった
何度か鐘を鳴らそうか迷ったけれど
僕はそうしようとしなかった
恐ろしい事を知ってしまう気がして
街は次第に大きくなって
沢山の道が増え
小さかったこの街は多くの人で溢れるように
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