傷痕/日蝕/安部行人
 
指は捩れた釘、その錆びた切先で裂く、僕らは、
宙を、
僕の頬を、
きみの鎖骨の下を、
すると膚と肉がみにくく割れて
黒い血が落ちる


横たわる僕らの眼に青色の空が映る。
完全な空の下――僕らの居場所はない。


僕らは動かないまなざしを向けあい、
植物よりも非生産的にたたずむ。
僕らは待つ。


僕らは滴り落ちる水を受ける、
僕らの舌に水は苦い。


僕らは指を絡めあい、黒い血の味を確かめる。
僕らは暗がりにふさわしいささやきを交わす。


僕らに刻まれている時間――
昼のうちにかりそめの夜が訪れる、その時に。


僕らはふたり分の混じり合う黒い血を舌にすくう、
みにくいままの傷痕とともに飲む。


僕らに日蝕が訪れる。
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