水族館の地下世界/番田 
 
もできなかった。

蟻だけが次の季節を待ちながら、手を合わせ、じっとしている。水族館の中で、魚を見飽きつつイスに腰掛けていても、水槽の中を照らしている青い光を見ていても、あまりそれは変わらないだろう。金魚のようなものの熱帯魚が、何も言わずぼんやりといつまでも泳ぎ続ける。ヒレがそこで左右に揺れた。

うひゃあという、何とも知れないような声がした。自分がなんなのかを考えながらそこで眠りに落ちるときの音だけを覚えている。自分が考えながら眠りに落ちていくときのぼんやりした音はあまり尋常ではないのだろう。それとも風が吹いているのだろうか。肌が空を切り、買ったばかりの帽子がそこで揺れた。黒い影がアスファルトに伸びた。小石の多いような空き地だ。アリクイはけれどもうこの国にはいなかった。


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