線路沿い/千波 一也
海へと向かう
風になりたかった
誰にも
心地よい匂いで
なんにも傷つけずに
透き通る
そんな
自由に
なりたかった
けれど
夕暮れどきの
風はいつも冷たくて
帰宅を急ぐ
心とからだは
その
方角に
うろたえていた
信じきることも
疑いとおすことも
ただ
一瞬の
わらいに
過ぎていたから
狭いベッドでみる夢は
とても
人には
語れなかった
純度の高い汗なんて
恥ずかしすぎると
逃げていたから
乗客であふれる特急に
シャツを揺らされた
線路沿い
春先は
ぬかるんでばかりだった
小道の突き当たり
風の
ぶつかる
暗い日なたで
列車はいつも聞いていた
通り道を
海へと向かう
いくつもの不自由を
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