ギムレットには早すぎる/渡 ひろこ
計はまだ午後8時を
回ったばかりだ。この時間に俺を呼び出したのは、差し詰め男
にドタキャンされたのだろう。ノコノコ出てくる俺も馬鹿だな
と自嘲しながら、やはり綺麗な女と飲むのは悪くない。ただ、
そこに付加価値を求めようとするならば、聞き役に徹する演技
も必要だ。
君が好むカクテルはジンベースで、かなりアルコール度は強い。
たちまち充血して虚ろな目になった君は、重厚なカウンターの
上に「彼への想い」を溢し出した。ローズピンクの濡れた唇か
らは次第に怨念となった言葉が連なり、崩れ落ちる。熱く湿っ
た吐息は、怒りで跡形もなく蒸発していく。鎖骨の下の過呼吸
な水蜜桃は肌けた膨
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)