話/たもつ
押さえている
娘が描いたその絵をどのように褒めるべきか考えていたが
娘はまだ脱脂綿という言葉を知らない
話さなければいけないことは沢山ある
そのいくつかを話し
やがて待合室を後にすると
娘と昼寝をした
悲しいことがあると裏の森で鉄砲を撃つ女の話
小さい頃は列車の運転手になるのが夢だった
ふとある日、列車の運転者になることはできないと知り
すべての弾を撃ち尽くしてしまった
それでも悲しいことがあると鉄砲を撃ちに裏の森に行く
鉄砲の音は?
バン!バン!
三回聞かせたその話のいつも同じところで娘は笑う
女は一度も笑ったことはないというのに
僕も娘といっしょに笑う
四回目の話を終え
娘と昼寝をした
どちらが先に寝付いたか
僕は知らない
娘も知らない
誰も知らない
誰も知らなくていい話
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