話/たもつ
 


ゴンザレス、生まれてこの方メキシコ人
今朝も早くからメキシコ風のシチューを
食べる
ゴンザレスを見守るゴンザレスの兄
生まれてこの方メキシコ人の兄
港の町では遠い海で漁をする季節
漁師ではないからゴンザレスもゴンザレスの兄も
船に乗らない
そんなメキシコ人の兄弟から恐ろしく遠いところで
僕とまだ幼い娘はボルシチを食べる
それもまたいつかの遠い話
そして食後
娘と昼寝をした


受付番号113番の僕はまだ呼ばれない
114番の娘は届かぬ足をブラブラさせている
待合室はひんやりとありふれていて
どこにも発車しない
採血室の前で人々が一斉に脱脂綿で左腕を押さ
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