いろいろなことを忘れて時間が過ぎる/ホロウ・シカエルボク
 

征服のようでもあった
はじめからそんなものはいなかったのだというように
幾枚か抜け落ちた落丁本のように
不完全なまま完全に仕上がった絵巻
縁日の向こうで空が破裂していた夏
焼きそばのソースと林檎飴の匂いが大好きで
それが自分の手になくともよかった
さい銭箱に15円を投げ込んでお参りをした
あの時の願い事は何だったか
蝉が死ぬようにさっぱりと忘れたまま
いつか熱を出したときに作ってくれた粥
体内を洗ってくれそうな優しい香りのする草
ひとくちの大きさに切られた林檎

降り積もった新しい雪を踏みながら
ポップスをくちずさんでいた口元
小さなビーズみたいな足元の感触
ああ、あの人にもう一度会いたい
ああ、あの人にもう一度会いたい
もう一度縁日と
やわらかな雪の上を
暖かい手のひらを感じながら



もういちど
記憶を
塗りなおすように


戻る   Point(0)