いろいろなことを忘れて時間が過ぎる/ホロウ・シカエルボク
 


いろいろなことを忘れて時間が過ぎる
そうだ、あの時、あの時側にいたのは
ひそかに恋焦がれていたあの人だっただろうか
綿菓子の機械に見惚れていた縁日ではぐれて
それきり会えなくなったあの人だっただろうか
手のひらのぬくもりは何度となく思い出せるのに
それが誰だったのかは決して思い出せない
「母のない子のように」という歌を聞きながら
一緒に縁側に腰かけていたあの人は誰だったのか
とてもそっとした印象で
棺の中に横たわっていたあの人はいったい
いろいろなことを忘れて時間が過ぎる
それは慕うような気持ちでもあったし
奪うような思いでもあった気がする
服従のようでもあり
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