世界の中には一ミリのメルヘンが浮かぶ。/プル式
 
月光輪は白く
外灯は虹をかがやく
世界は青く
白い道をしめす
道端に手向けられた花は
誰をしめすでもなく語りかけ
僅かな戦慄と蜘蛛の糸のような
儚い残存を与える

あぁ、夜だ

振り返りそう呟いてみた声は
どことなく夜気をはらみ
白いまましばらく空に浮かんだ

あぁ、夜だ、夜だ

私は何故だかそれが嬉しく
くり返しくり返し
何度もそれを空に投げ
やわらかな坂道を後ろ向きに歩いた

街明かりの小さい事
月の明るい事
白いまま浮かぶ言葉の事
そのどれもを忘れまいと目を開く

あぁ、夜だ、夜だ、夜だ、夜だ

きっと忘れて仕舞うだろう夜は
やはり青く
外灯は虹を
月は大きな輪を描いていた。
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