雨上がり、春を待つ/中原 那由多
 
白壁の結露が乾く前に
一足先に階段を駆け降りて
鏡の曇りが晴れるよりも早く
下駄箱から逃げ出した
必要なものが少なくなってしまい
机に描かれた落書きもどことなく素っ気ない

悴んでばかりいた私の手は
こんな日に限って温かい


純情さを掲げて歩んできた道は
綺麗事よりも穢らわしく
嘘のほうがよっぽど上品に見える
ずっと憧れていた桃色の果実は
見た目とは裏腹な味をしていて
泣き崩れる以前に腹を壊した


露骨な笑い声を期待しているのは
その他諸々のエキストラ
執拗に投げられた生卵は
自意識過剰な顔つきのまま
グチャリと窓ガラスにこびりつく

未練がましく呼吸をするのは
詩人ではなくて、詐欺師のほうだった


白い煙が消えてなくなり
国道ニ号線がまた近くなる
ふと庭に出てみれば
やはり見慣れた足跡ばかり


も少し遠くで、春を待とうか



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