影のない女/月乃助
 
陽の中に
影のない女がひとり
誰もが引きずるそれを求めて、
あたしにはないのだから、
売ってくれますか、
それがなくても苦労しないのだったら
望みの幸せと引き換えに

皆、後生大事に足元にへばりつけている
なくしてしまえば、こんなにも軽く歩くことができるのに
気づくことは、ないのかもしれない

モミの木はだんまり
影のないもの達を見つめてる
くっきり自分の影を投げかけては
えらそうに、一本の木でしかないはずのおまえが、
失うことがそんなに恐い
それならば、それを失くしたあたしの愚かさも
気づいているのだろう、

影をなくした時から、歩んできたその道も
ほら、栗鼠が、使いのものがやってきた
少しでも普通の人間に近づこうと
そんなところなのだろうけどね、
仕方がないのさ
夫は、やはり石にならねば
ならないのさ







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