春の兆し、夏の兆し/たちばなまこと
春の兆しであたためてあげるよ
川沿いにみなぎるさくらの木々たち
さくらの紅のような ほんのりとした色づきで
水のあるところには命が溢れるんだ
溺れてもいいよ
溺れてもいいよ
わたしたちの季節は真夏
生い茂る碧
沸き立つ命
すべては誰かの糧になる
春の兆しに真夏を抱く
夏祭りの高揚で
神様みたいな夜を
許されるかぎり
したいよ
したいんだよ
あなたは夏の兆しそのもの
あなたは真昼の日差しで
この冷たい朝にも
春や夏の閃光を 引き連れてくる
届くのに届かない
手を伸ばすしるしが掴めないよ
住宅街の車窓から
裾を折り返した スパークオーガンジーが 重なる夕時
気配の消えたベランダから
真綿を紡ぐ前の繊維が 流れる早朝
あなたを想うと乳房が痛い
とても 痛いんだよ
ゴンドラを待つ夢を何小節も見たよ
何小節も 何小節も 孔雀の青で
塗りつぶしたよ
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