返済する秋/草野大悟
秋が
ふらりとやってきて
10万円を返しにきた
と言う
後の8万円は
出世払いね
などと
片目をつぶってみせる
秋がまだこの国で
秋という名前もなかったころ
お日様の姿が見えなくなると
ビービーと泣きやまないものだから
この国の人たちは
この甘えん坊の季節を
果たして何と名付けるか
ずいぶん悩んだと
いつか空が言っていたことがある
春をふって
夏をふり
ついでに冬までふる勢いの秋は
しばらくはこちらにいるから
ときどき返しに来るよ
と当てにならない返済の約束をし
茜色の風に乗って
ふんわりとねぐらに帰っていった
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