『あなたへ、』最期の手紙/くろきた
 
いるだけだった。

ベッドの傍らに立った。
白い顔をして、眠っている母親がいた。
ずいぶん、小さくなったんだな。
そう呟くと、せきを切ったように
どっと涙が溢れてきた。

手を握る。
冷たい手に、自分の体温を流し込むかのように
強く、強く。
そして、語りかけた。

『ありがとう、母さん。
 大好きだ。』

その瞬間、ピーという冷たい電子音が部屋に鳴り響き、
母さんの最期を告げた。
俺はそっと彼女の頬を撫でた。
彼女のその頬には、深々としわが刻まれていたが
かすかに微笑みが浮んでいて、とても安らかだった。
俺も、また母さんの息子がいいよ。
そう心で思いながら病室のカーテンを開けた。

朝日が、窓から差し込んできた。


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