八月の闇/吉岡ペペロ
 
や柿ピーをつまみながら
さいきん読んで面白かった小説の話などをした
愛人が娘らしいしぐさで楽しそうに聞いていた

ベランダからゆるい風が吹いてくるたび
白いカーテンがたよりなくめくられていた
ふとくて深い八月の闇が覗いていた

オモニはぼくについて何も聞いてこなかった
オモニは忘れものを取りに来たということだった
愛人は三人分のタバコの煙と吸い殻を気にしていた

電話してくれたら、届けたのに、

それが賢い方法やったなあ、

もうあかんで、転落死すんで、ほんまに、

ぼくはふたりをオモニの家に送り届けてから
じぶんの家に何くわぬ顔をして帰った
誰もいないリビングに明かりをつけて
ソファにどかっと寝ころんだ
オモニが面白いよと言っていた
西村京太郎のオーロラ殺人事件を読んでみようと思った



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