高野山物語/済谷川蛍
ある。
しかし、それは思い出に過ぎないような気がした。
他人の魂を感じ取るには、共感がキーになりそうだ。自分と同じものを他人にも感じ取る。孤独な人間ほど自己を曝け出すのは、魂に共感を求めているからかも知れない。
爺さん、あんたも寂しいんだ。共感出来る相手がもうこの世にいない。わかってるんだ。あの日、念珠を取ったのは、自分に似た哀れみを感じたからだ。
その日、爺さんは私の前から消えた。
床にあった念珠を手に取った。
「本当に逢えると思ってるの」
少し手のひらが温かくなった気がした。
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