月面航海記(静かの海より)/楽恵
オリエンタレ・ベイスンから
いくつかの高地(テラ)と海(マーレ)を越え
ようやくこの海にたどり着く
小さな銀色の船を岸に寄せるけど
この岩だらけの灰色の海には水が一滴もない
すぐそばにアルタイ断崖がそびえ立つ
どこにいても
断崖はいつも断崖として僕の前に現れる
地平に青い星が昇ってくる
地球の出をみる
火星と木星のあいだに
故郷の青い星がある
この海には水が一滴もないのに
あの星はあんなに水が溢れている
砂を巻き上げ風が吹いた気がした
想う人よ
僕は今、月にいるのだ
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