夕暮れ、ときどきペンギン/佐野権太
 
連続するシグナルが流れ込み
激しく流れ込み
とりとめのない水圧に
胸を押される

匂いのない夕暮れが満ち
眼球の裏側に満ち
屹立する剥製のように
赤光を反射させる


僕たちはきっと
ペンギンであるべきだった
慣性のまま氷上を滑るとき
痛みはない
むしろ、心地よい風をきる
明日の氷の厚さは
知らなくていい

だいたい人は
何故こんなに群れたがるのか
さっきから
おまえのクチバシで
海が見えない


風景は水没し
虚ろな空洞に
さざ波がこだまする
それは
月あかりに潜む少女
つまり君の、呼吸に似ている

上昇する水位が流線を潤し
細胞膜を潤し
何もかも青く溶かすなら
僕は僕の短い羽で
君を初めから愛したい






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