労働/攝津正
 
いだろう。友人と現に会っているのに不安になるこの心理状態は、攝津自身にも不明な物だった。ただイヴェントに出掛けたり、人と会ったりすると緊張して不安状態に陥る事がよくあるのは自覚していた。その日もそうだったというだけだ。
 長時間話をしたように思うが、何を話したかは攝津はよく覚えていない。ただ確かなのは、攝津の芸術観、労働観、人生観が変らなかったという事だ。攝津は平日は働き休日は簿記の勉強をし、通勤の合間に音楽鑑賞と読書をし独りの時にはピアノを奏でてインターネットラジオ放送をする、そういう者でありたいと願ったし、そういう者以外にはなりたくてもなれまい。人間、出来る事を出来る範囲でするしかないのだ、
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