労働/攝津正
理21』柄谷行人、第一章、平凡社) そして私小説とは否定すべきものに過ぎない、と。その意味でこの長編小説『労働』は私小説だ、と攝津は前田さんの指摘を受けて考えた。だがそれで構わぬと思った。攝津は自分の転向とは漱石の言う自己本位、吉本隆明の言う自立、デス見沢の言う開き直りなのだと考えていた。攝津は我欲を罪悪視する見方にどうしても賛同出来なかった。攝津は昔も今も、カント主義者であるより功利主義者だった。快楽計算。
その日攝津は休日だったので、ユーキャンの通信講座の簿記三級のテキストを読んでみた。難しい。分からない。つくづく向いていないのだ、と思う。だけれども、申し込んでしまった。お金は払わなけ
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