降板/たもつ
行ったきり帰って来ない父を待っている間に
僕は肩を壊してボールを握れなくなった
故障した肩は匂いや形が花に似ているみたいで
通りを歩いていると勘違いしたハチが集まってきて困る
その度にそよ風のようなタッチで叩き落とさなければいけない
何事も大切なのはそよ風のようなタッチだ
父の口癖を僕は守り続けた
それでもハチに当たらないときは
いよいよ判定に持ち込まれる
真夏の炎天下、旗を降る係の人も大変だ
ほんの気持ちですからと中元や歳暮を贈っても
風光明媚な絵葉書を添えて丁寧に送り返してくる
その後は採血検査
こちらの検査員は中元や歳暮どころか
三食昼寝付きまで喜んで受け取る
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