/石黒
 
い、そのやわらかさに、いっそう耐え難い眠気が降りかかってくる。唇が土によごれ、土はいたずらに水気を帯びてゆく、いまだ知ることのなかった老いが、いま降りかかってくるように。雨のよろこびは、野のかなしみを知らない。かなしみの果てに広がる野をあの人は駆けてゆく。太陽の光に酔いしれながら、動物を狩り、植物の芽を摘む、あの人の足は血を流している。あの人は何も知らない。血は言葉を持たないというそのために。あなたの名を知らないということ、それが一つのかなしみだとしたら、そのかなしみは、何千年も前からひびいていたのだ。

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