/石黒
 
あなただけが頼りだった。今はもう、私の老いた手は土を掘ることしかできない。かつて嗅いだあなたの匂いにもまして、この土が私をむせかえらせるのなら、あなただけが頼りだったあの年月は、今はもう、太陽のように輝いている。水気に満ちたこの通りにもまして、傘をさすあの人の背中は濡れている。濡れたのなら濡れるほど、青みがかってゆく、あの人の不在も、さす傘も、かつてと同じ姿のまま、私の記憶に再びとどまる。新しい客人をもてなしては増えてゆく、箸も、皿も、消えてゆく靴の、その足音よりもなお、美しく、また何よりも透きとおっている。眠りながら燃えるあの人の頬は赤く、雨上がりに燃える、色づいた木々にもまして、みずみずしい、
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