わたしたちの全ての透明/ねことら
 
際良く所定のドリルを片づけていく。大きな流れに頭まで沈積し、歯車の回転、歯車の回転、とわたしもやっつけていたのだが、いつのまにかすこしずつ弾かれて弾かれて浮き上がって、周りを見渡すときみも困ったような顔でこちらを見ていた。つまりはそういうことだった。オブラートに幾重に包まれても痛みは痛みでしかないのなら、ようやく信号しあえる単位として自分たちを扱ってあげたかった。もっとも、わたしたちは底辺にあることを積極的に肯定したがっていたし、その点で救いのないのがよかった。きみといれば心地よかった。それで、いいと思う。




きみはどれくらいそうしていたのか、やがてふっと腕をおろし、カメラを埋葬するようにバッグに放り込んで、ぎこちないバランスで突堤のうえのサーカスを再開した。「目を閉じても、このまままっすぐいけるよ。」きみは一足ごとにふりかえり、ふりかえり、わたしとの等間隔をたしかめながら、気楽なひかりのなかで笑っていた。




いまは、透明な朝の足音のなかにいる。そんな気がする。





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