【批評祭参加作品】うたう者は疎外する/される/岡部淳太郎
 
それは淋しさという感情である。無名ということを現実的に言えば、人に名前を覚えてもらえないということである。そしてそれは、名づけによって所有するという人間社会の法則が自らに対してだけは機能していないということでもあり、そのために他から所有されない、所有の欲望を持たれないということでもあるのだ。そのような状態に置かれることで、彼の心中には混沌が生じる。名づけというものが元々世界の混沌に秩序を与える行為であったことを考えると、無名性の中に投げこまれた個人が混沌を抱えてしまうのはきわめて当然の成り行きだということが言える。
 名づけられたものと名づけられざるものの対比によって事物を認識するのが人間の(そ
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