ひと夏/
たもつ
上り列車の中を
下り列車が通過していく
線路脇の草むらでは
無縁仏となった墓石が
角を丸くし
魂と呼ばれるものの多くは
眠たい真昼の
些細な手違い
ひと夏を
鳴くことで生きた蝉の成虫が
暗い側溝で今
息絶えようとしている
そのような瞬間にも人は
遺言を残すことに
忙しくしている
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