【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
詞は完全に剥奪されていた。男子からも女子からも校長先生を含む学校中のすべての先生から「チャンス」と呼ばれることで彼の固有名詞は回復の機会=チャンスを奪われ、それゆえ「チャンス」というあだ名は蔑称として機能していた。
「ぺちゃんこのカバン」ってのはだいたいちょっと不良っぽい子が持っていて、いわゆる改造カバンってやつで、彼は、「チャンス」は裸にされたりしていた。きっと、あたしも一度や二度くらい「チャンス」を裸にしたことがあるだろうし、それ以上に裸の「チャンス」を校内で目撃していた。
あたしたちはそろって「ぺちゃんこ」で、中には何も入れられなくて、わけもなく息苦しくて、わけもなく自分を痛
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